うそつき
あるところに、うそつきの男がいました。
ほんとうによくうそをつくその男は、毎日うそをついて、自分の都合がいいように生きてきました。
ある日、そんな男を見かねた神様が、罰をくだしました。
それは、「ついた嘘が全て本当になってしまう」というものでした。
男は、「ふふ、神様め。俺様への罰を褒美と間違えたな。」と、したり顔でにやにやしていました。
今まで男がついてきたうそ。
「村一番の美女が俺のことを好きらしい」「俺は大成功する秘訣を知ってるんだ」「今度の満月の晩に、大雨が降るんだ。そんでもって、さそり座のあの星と一本松が重なる日を境に気温がぐっと下がるんだ。俺は天気を正確に知れるんだぞ」…
その数は数えきれません。
そして、それが全て本当になりました。
村一番の美女に愛され、大成功を収めた男は、幸せそのものに見えました。美女との結婚式にはもちろん、気持ちが良い晴れの日を選びました。男はその美女のことを本当に愛していたし、美女も男のことを愛していました。
しかし、だんだん男はその生活に違和感を抱きました。
「お前のことを愛しているよ」「たまご山に橋をかける工事をすれば、大儲けできる」「次に霜柱が立った日に収穫した大根が一番高く売れるぞ」…
軽い気持ちでついた嘘が全て現実となるのです。
これはどうしてなかなか、気持ちの悪いものです。
そしてある日、彼はとある失敗を犯してしまいます。
それは、村の酒場で若い女と喋っていたときのことです。
男はひどく酒に酔っていて、若い女に「あなた、家庭とかあるんじゃないの?」と聞かれた時、こう答えたのです。
「あぁ、女房なら死んじまったよ。あれは辛かったな」
単なる出来心でした。若い女に「まあ!それはごめんなさいね…」と、同情して欲しかっただけかもしれません。でも、それさえ現実になってしまったのです。
美女は死にました。
男は、自分の失言をただただ恨み、毎晩泣いて過ごしました。パンも喉を通らず、水さえろくに口にしない男は、日に日にやせ細っていきました。
そんなある日、男のことを心配した友人が、お見舞いにやってきました。
彼は自分の畑で採れたみずみずしいぶどうと、頂きものの梨を2つ持ってきました。
そういったものの方が食べやすいと思ったからです。
新聞受けに新聞がぎっしり詰まったドアを二回ノックすると、げっそりやせ細った男が顔を出しました。
「やぁ、こんなときにすまない。調子が気になってね。最愛の人を亡くすことは辛かろう。僕も愛していた犬のケニーが死んだ時は本当に辛かったよ」友人は、男を傷つけないよう、極力配慮をしたつもりでした。
しかし、それが逆に仇になったのです。
男は、最愛の人が犬と比べられたことや、友人の能天気さ、そしてその他もろもろに無性に腹が立ちました。
すると、男は思わずこう言ったのです。
「僕は別に彼女のことなんて忘れたから悲しくないし、ここまで失礼な発言をする君みたいなやつなんて、もう友達じゃない」
しまった。男は、だらりと冷や汗が背中をつたうのを感じ取りました。
あっという間に男は哀しい気持ちなんて吹っ飛んで、もはや死んだ彼女のことなんてどうでもよくなりました。そして、さっきまで心配そうに男を見つめていた友人が、「おや、僕はどうしてこんなところにいるんだろう。やぁ、初めまして。ここは君のお家なのかな?ちょっと僕記憶が混乱してて…」などど言い出したのです。
「そうか、そういうことだったのか神様よ」男は、心のなかで呟きました。
それから男は、その無口さで有名な変わり者として、一生を終えたのでした。
おしまい